在宅医療とは?

●自宅に医師が来てくれる医療

在宅医療とはどのようなものか?ピンとこない方もたくさんいらっしゃると思います。
在宅医療とは、通院が困難で自宅での療養を希望する患者さんのために、自宅などを訪問して診療を行うこと。ちなみに“在宅”とは、自宅だけではなく高齢者施設なども含まれます。
患者さんにとっては通院の負担が減りますし、住み慣れた場所で診療を受けられることがメリットです。また入院の場合と同じように、困ったときにはお医者さんや看護師さんが駆けつけてくれるので、自宅にいながらも安心感がありますよね。

 

 

●在宅医療=生活を支援する医療

在宅医療に携わる医師(=訪問診療医)がしっかり見ているのは、患者さんの生活のしやすさです。痛みや呼吸の辛さなどの生活を妨げる症状はもちろんのこと、食事の内容や量、体の動き、排尿・排便の状態、身体の清潔、睡眠などの状況も診察します。
例えば、足腰が弱った方には、リハビリの専門職と連携して、リハビリのプログラムを考えます。栄養が不足していれば、栄養士と連携して原因の改善を目指します。
訪問診療医の仕事で重要となってくるのが、さまざまな専門職との連携です。患者さんができるだけ快適に家で生活できるよう、チームで患者さんの“生活を支援する医療”を目指します。
在宅医療
 
 

訪問診療と往診のちがい

訪問診療医が患者さん宅を訪問する頻度は、状態が安定していれば月に1〜2回です。しかし状態によっては、頻度が増えていくことも。状態を安定化するために必要な訪問頻度は、ご本人やご家族と相談して決めていきます。このように、定期的に訪問して診療を行うことを『訪問診療』といいます。
これに対して、患者さんの状態が急変し緊急に診てもらいたいことがあった場合、医師や看護師が駆けつけることを『往診』といいます。在宅医療を専門にしているクリニックの場合だと、基本的に24時間365日いつでも対応してくれます。

在宅医療をサポートしてくれるサービス

自宅での診療よりも、日々の生活を不安に思う患者さんやご家族が多いのではないでしょうか。
「在宅での介護を始めたいけど、どこに相談すればいいかわからない」
「緊急時はどうやって対処したらいいのだろう…」
「負担が大きくて疲れてしまいそう」
『自宅にいたいという本人の思いを尊重したい』というお気持ちがある反面、不安も大きいですよね。自宅での介護は、頑張りすぎないことが大切。なので、以下に紹介するような在宅医療をサポートしてくれるサービスを、上手く活用してください。

 

退院前カンファレンス(注)

病院から在宅医療へスムーズに移行するための最初のステップが、「退院前カンファレンス」です。在宅医療を始めるために、事前に病院で行う会議のことを指します。病院の担当医、訪問診療医、訪問看護師、薬剤師、介護スタッフ、ケアマネジャーなどが集まります。もちろんご本人やご家族も参加していただきますので、不安や疑問をまとめておき、この機会に質問して解消しておくと良いでしょう。
退院前カンファレンスでは、主に病院からの情報共有と患者さんの療養生活を自宅でどのように支えるかについて話し合います。そこで日々のケアの説明(※1)や注意事項、訪問診療や訪問看護の日程も調整します。
そして重要なポイントが、在宅医療の目的をはっきりさせることです。病気から回復することなのか、今の状態を維持することなのか、家で最期を迎えるまでのサポートなのか…。目的によって在宅医療のプランは大きく変わります。在宅での療養生活をスムーズに行えるよう、ご家族の状況も考えたプランを用意してくれます。

(注:退院後に在宅医療へ移行する方が対象となります)

  • ※1 日々のケアの説明
    患者さんが日常生活の動作をどれくらいできるかに応じて、介護用ベッドや配食サービスが必要かどうか、排せつや清潔保持のため家族がどのような介助をすればよいか、転倒予防のために住宅改修をするべきかどうかなどについてお話しします。

人生会議(アドバンス・ケア・プランニング)(※2)

とはいうものの、ご本人・ご家族だけで目的を決めるのが難しいこともよくあります。その場合は、「人生会議(=ACP)」をご本人、ご家族、医師、看護師、ケアマネジャーなどと一緒に開催してみても良いでしょう。人生会議とは、患者さん自身が望む医療やケアについて、前もって考え、繰り返し話し合う取り組みのことです。目的だけでなく、本人の価値観について繰り返し話し合う過程がとても大切。もちろん入院中のみならず、自宅に戻ってからの開催でも大丈夫です。

 

  • ※2 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)
    自分が望む医療とケアについて、前もって考え、くり返し話し合って共有する取り組み。18年に各医療機関に対して、患者さんと家族と話し合い、患者さんの意思決定を基本にほかの関係者と連携のうえ、対応することが要件化されましたので、ACPにご関心のある場合は、担当医師に気軽に相談してみてください。

訪問看護

いざ自宅での生活を始めてみたら、入浴や食事の介助がうまくできなかったなど、家に帰って始めて気づく困りごとも出てくるかもしれません。そういうときは「訪問看護」を利用すると良いでしょう。
訪問看護は、看護師が自宅を訪問して、医療・介護の両面から日常生活をサポートしてくれるものです。病状の観察や薬の管理、入浴や食事の介助、排泄介助、介護の助言など、幅広く対応してもらえます。希望される場合は看取りまでサポートしてくれます。医師には相談しづらい悩みまで聞いてくれる、とても心強い存在です!

訪問リハビリ

自宅だと筋力の衰えや体力の低下が気になる…そんな方には「訪問リハビリ」があります。訪問リハビリは理学療法士・作業療法士などが自宅を訪問して、患者さんが日常生活で自立できるよう治療や訓練を行います。
また介助方法の指導だけでなく、手すりの設置や介護用ベッドや車いすなどの福祉用具の相談にも対応してくれるので、環境の悩みも解決できそうですね。

その他の生活支援サービス

介護は毎日のこと、たまには自由時間が欲しい。どうしても外出しないといけない日もある。そんなときは、「デイサービス(※3)」や「ショートステイ(※4)」、「訪問介護(※5)」に頼るのもひとつです。詳しくは、ケアマネジャーにお尋ねください。訪問看護師と同様に、日常生活の心強い味方になってくれるはずです。

 

  • ※3 デイサービス
    訪問介護員(ホームヘルパー)などが利用者の自宅を直接訪問して、入浴
    介護保険サービス「通所介護」の通称。利用者は自宅で生活しながら日帰りで施設に通い、体操や食事、入浴などのサービスを受けられる。
  • ※4 ショートステイ
    訪問介護員(ホームヘルパー)などが利用者の自宅を直接訪問して、入浴
    介護保険サービスのひとつで短期入所生活介護と、短期入所療養介護の2種類がある。前者は、要介護者に介護施設などへ短期間(最長で連続30日まで)入所してもらい、入浴や排せつの介助などを実施する。後者は、前者とほぼ同様のケアを実施するが、看護・医学的管理の下、より医療必要度の高い人にも対応する。
  • ※5 訪問介護
    訪問介護員(ホームヘルパー)などが利用者の自宅を直接訪問して、入浴、排せつ、食事等の介助などの「身体介護」や調理、洗濯、掃除などの家事といった「生活援助」を行うサービス。

在宅医療をはじめるための心がまえ(後編)はこちら >

監修医師:姜 琪鎬

  • 名古屋市立大学医学部 臨床教授
  • 名古屋市医師会在宅医療介護連携委員
  • 藤田医科大学 大学院客員教授

経歴

  • 1990年 名古屋市立大学医学部卒業
  • 2000年 Emory大学経営学大学院卒業と同時にMBA取得。ケアネット社に入社し、病院経営支援やケアネットTV・ケアネットDVD事業に携わる
  • 2002年~訪問診療医として活動
  • 2012年4月 故郷の名古屋市にてみどり訪問クリニックを開設

〈在宅療養をしたいと考えたときに、自身を委ねることができるクリニックでありたい〉という思いを胸に、日々奮闘中。


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