在宅医療を受けられる条件

原則として、一人で医療機関への通院が困難な方は、在宅医療を受けることが可能です。特定の病気や、重症度などは関係ありません。一人で通院が可能な方は、希望しても保険診療で在宅医療を行うことはできません。

クリニックの選び方

長いお付き合いになる医療機関。まずは、〈ご本人に合ったクリニック〉を選びたいですよね。様々な判断基準があると思いますが、以下のような条件を満たしているクリニックが良いのではないでしょうか。

 

  1. 距離が近い
    訪問診療を行えるエリアは、医療機関から16km以内の範囲と決められています。万一の往診の際にも、自宅に近いクリニックのほうが迅速に対応してくれます。
  2. 実績
    まずは、病院の地域連携室のソーシャルワーカーや担当のケアマネジャー、訪問看護師に実績や評判を尋ねてみてください。名古屋市の場合、各区で名古屋市医師会が運営する「はち丸在宅支援センター」(※6)に問い合わせする方法もありますよ。※6 はち丸在宅支援センター https://zaitakukaigo.nagoya
    市民の在宅療養に関する不安や悩みへの相談窓口の運営をはじめ、お住まいの区の医療資源情報の提供、在宅医療・介護に関する各種講演会の開催など、在宅療養環境のサポートを行ってくれる。
  3. 対応時間
    最近では、24時間365日対応してくれるクリニックも増えてきています。しかし対応していないクリニックもありますので、あらかじめ確認しておく必要があります。対応していない場合は、どこの医療機関に連絡すればよいのかを事前に取り決めておきましょう。また、緊急時に専門性の高い病院を紹介してもらえるかも確認しておいてください。
  4. 医師との相性
    これが一番大切な条件かもしれません。医師も患者さんもお互い人間。相性があるのは仕方ありません。そこは正直にいきましょう。

 

いろいろと条件を調べるのが大変 !と思われる場合は、「在宅療養支援診療所」を探してみてはいかがでしょうか。緊急時に往診してくれる医師や搬送先を探したり、いろんな事業者と連絡を取り合ったりしなくても、在宅療養支援診療所が対応してくれます。

 

在宅療養支援診療所の必須条件

  • 24時間365日対応
  • 緊急時に連携する保険医療機関で検査、入院時のベッドを確保
  • 在宅療養について適切な診療記録が管理される
  • 地域の介護、福祉サービス事業所と連携

在宅医療を始める前に確認しておくこと

ここまで日々の生活のサポート体制やクリニックの選び方をお伝えしてきました。少しは不安が解消されたでしょうか?そこで、一旦立ち止まって考えてみましょう。

 

―在宅医療を受ける患者さんへ
本当に、ご自宅で医療を受けたいですか?病院の方がすぐに対応できることも多くありますよ。

 

―ご家族のみなさんへ
在宅医療について納得していますか?無理をしていませんか?

 

在宅医療はご家族の協力の上で、「患者さんの自宅で過ごしたい」という気持ちを実現させるためのものです。ご家族が無理をして生活に支障をきたしたり体調を崩されたりすることで、生活が成り立たなくなるケースも少なくありません。特に問題となるのが、介護に携わるご家族がひとりで負担を抱えこんで、誰にも相談できないまま、心身の疲弊がじわじわと進行して、ギブアップに至るケースです。私自身、何度か経験していますが、いつでも相談しやすいような関係を構築しておくべきだった、その兆候を早く察知すべきだったと反省させられます。
ご家族の健康があってこその在宅医療なのです。それにご家族がつらい様子だと、患者さんは責任を感じてしまうでしょう。

 

あえて念を押すようなことを書きました。在宅医療を始めるにあたって、〈本人の覚悟〉と〈家族が希望を叶えてあげたいという気持ち〉を固めることが何よりも大切だからです。超高齢化社会に対応するため国が推進している“地域包括ケアシステム”においても、それが示されています。もっとも根底にあたる植木鉢のお皿の部分に、〈本人の選択と本人・家族の心構え〉が描かれています。つまり、当事者の決意がもっとも根幹を成すものなのです。
地域包括ケアシステム

ここまでお読みいただき、「よし、在宅医療を利用してみよう!」と思われた方は、次の『在宅医療を始める手続き』にて具体的な手順をお伝えします。

在宅医療を始める手続き

在宅医を選ぶ
入院中であれば担当医に紹介してもらう、もしくは地域連携室のソーシャルワーカーにアドバイスをもらうのが良いでしょう。既に自宅で療養中の方は、「クリニックの選び方」を参考にしてください。

介護保険の準備
自宅での生活に役立つのは、介護保険サービスです。利用できるのは65歳以上ですが(第1号被保険者)、がんや脳卒中など病気によっては、40歳以上であれば利用できます(第2号被保険者)。認定されると要介護度に応じて、介護に関わるホームヘルパー、訪問リハビリ、車いすや介護用ベッド等福祉用具の貸与、介護しやすいように住宅改修するための改修費用の支給といったサービスを受けられます。
介護保険サービスを受けるには、まず市区町村の「介護保険担当窓口」や地域包括支援センターで申請し、要介護度の認定を受ける必要があります。申請してもすぐに認定されるわけではないので、できるだけ早く申請しておきましょう。

介護保険制度


ケアマネジャーを選び、ケアプランを作成
大切なのがケアマネジャー選びです。困ったことがあればまず相談する、頼れるパートナーです。
自宅に近い・フットワークが軽い・親身になってくれる・情報を多く持っているなど、自分に合う人を見つけてください。ケアマネジャーが決まったら、相談してケアプラン(=介護サービスの計画書)を作成してもらいます。

病状の引き継ぎ
病院の担当医にはこれまでの診療や治療、病気の状態等について記録した「診療情報提供書」(有料)を必ず用意してもらいましょう。入院中であれば、「退院前カンファレンス」のように病院と在宅療養に関わるスタッフが顔を合わせる機会があります。
既に自宅で療養している場合は、前に診察していた医師の承諾を得た上で「診療情報提供書」(有料)を書いてもらいましょう。在宅医療専門の診療所などでは相談外来を設置している場合もあるので、不安や疑問がある場合は事前に相談しておくと良いでしょう。

解決策はちゃんとあるはず

楽しかった旅行のあとでも、わが家に帰ってくると、何だかほっとしますよね。入院生活なら、なおのこと「自宅に戻りたい」と感じるのではないでしょうか。しかし、自宅での療養となると、「自分で介護ができるのか」「負担が大きいのではないか」と不安に感じる方が多いと思います。その不安に寄り添う仕組みやサービスは、たくさんあります。

 

私が訪問診療を担当しているご家族の中にも、はじめは戸惑っていらっしゃる方がたくさんみえました。きちんと説明を受けると、「それならできるかも!」と在宅介護を始められ、思っていた以上にできているケースが多いです。

 

やってみてダメなら次の手を考える。それもありなのです。どうしても不安が残って決心がつかないのなら、医師・看護師・ケアマネジャー・ソーシャルワーカー・地域包括支援センター(※名古屋市では「いきいき支援センター」)にどんどん相談してください。解決策はきっとあります。慣れ親しんだ自宅で、家族と共有できる時間はかけがえのないもの。家族で助け合っていこうという思いがあれば、在宅医療は家族の絆を深めるものになると思います。

監修医師:姜 琪鎬

  • 名古屋市立大学医学部 臨床教授
  • 名古屋市医師会在宅医療介護連携委員
  • 藤田医科大学 大学院客員教授

経歴

  • 1990年 名古屋市立大学医学部卒業
  • 2000年 Emory大学経営学大学院卒業と同時にMBA取得。ケアネット社に入社し、病院経営支援やケアネットTV・ケアネットDVD事業に携わる
  • 2002年~訪問診療医として活動
  • 2012年4月 故郷の名古屋市にてみどり訪問クリニックを開設

〈在宅療養をしたいと考えたときに、自身を委ねることができるクリニックでありたい〉という思いを胸に、日々奮闘中。


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